通夜に来ていた仲間たちとうっすら酒を飲み、入社当時の思い出ばなしを語り合った。1993年の一月に外資系ソフトウエア会社に入社した私は、英語は話せない(今もだが)、パソコンはおろかワープロにすら触れたことがないという有りさまで、ほんとに自分で大丈夫かなという思いがどうしてもぬぐえなかった。入社して三日後くらいだったろうか、上司の部屋に行ってその気持を打ち明けた。すると上司は微笑みながらこう言った。「鈴木君、車の運転はできるかい?」私がはいと答えると「じゃあ大丈夫だ」。これだけである。このひと言ですっかり気が楽になった私は、以来タイプデザインの仕事に夢中になって取り組むようになった。この話を言い訳にするわけではないが、いまだに私のパソコン操作は「なんとか運転できる」ていどの腕前である。根っからの車好きにはかなわないと割り切って、私はこう考えることにした。その車に乗ってどれだけ素敵な場所に行けるか、素敵な仲間と一緒に景色を楽しみながら旅を楽しもう。私はそう望み、事実タイプデザインという仕事にそう臨んできた。脱輪したっていいじゃないかと。