Type Project —visible, but invisible.

2004年09月30日 木曜日

ロゴタイプ不採用の電話連絡あり。今回はいいものができたなと思っていただけに残念でならない。すぐに気持を切り替え書体制作に向かう。今月のフォント売上げ報告書がファックスで届く。過去最低の金額か。めげずにはいられないが、書体制作の手はゆるめない。いっそう強める。

2004年09月29日 水曜日

長くて早い一日。授業後、新宿で友人と一杯。角突き合わせて打開策を模索した結果、なんとか懸案事項に道筋をつけることができた。妥協案ではあるかもしれないが、ここいらで楔(くさび)をひとつ打っておくことが重要と判断した。長すぎるザイルは危険なのだ。ピッケル一本の有無、あるいはピッケルの位置が登頂の成否を分けるかもしれないのである。

 靴紐を締め直し行く野分かな    茶門

2004年09月28日 火曜日

学食で塚本さんにばったり会った。今年から多摩美で講師をすることになったと本人から聞いていたので、いずれ顔を合わせるだろうと思っていた。プロダクトの研究室にお邪魔して、コーヒーをいただきながら雑談を二十分ほど。部屋もさすがにプロダクト的な雰囲気だと妙なところに感心してしまった。

2004年09月27日 月曜日

雨冷えびえと。あまりの寒暖差に体がついていかない。見本帳のダミー制作。A4にするかB5にするかで大いに悩む。決めなければならない事柄が山のようにあるのだが、再考につぐ再考、長考また長考で、いっこう前に進まない。

2004年09月26日 日曜日

ひらたけと蓮根の炒めもの、糟漬け鮭の焼いたもの、つるむらさきのお浸し。純和風の夕食がはらわたにしみる。体をやすめつつ印字サンプルとにらめっこ。

2004年09月25日 土曜日

腹と腰に力が戻ってきた。子供に半紙と筆墨を与え好きに書かせる。その向かいで私も手習いを少々。午後三時ごろ書体制作をひと区切りしてデータのバックアップ。見本帳のダミーづくり。

2004年09月24日 金曜日

夕方から小雨が降りはじめ、久しぶりに涼しい一日となる。八割がた回復した体調と相談しながら通常のペースで書体制作に臨んでみたが、進み具合も八割くらい。ごまかしの効かないバロメーターのようだ。好調時のアドバンテージはいくらあっても困らない、と弱り目のときにはしみじみそう思う。画数の多い漢字にあたったときに平然としていられるかどうか。これも好不調のバロメーターになる。黒々とした漢字が魔物のように思われる日もあるわけです。

2004年09月23日 木曜日

吐き気と悪寒が続く。葛根湯を飲んで午前中は横臥、昼すぎから書体制作。そろそろお茶でもと立ち上がり、仕事部屋を出るとき鴨居で脳天を打ちつけた。「べこっ」という嫌な音がしてそのまま廊下に横臥する。

2004年09月22日 水曜日

原因不明の嘔吐感に苛まれる。風邪か疲労かあるいは季節はずれの暑気あたりか。生徒に悟られぬよう気力でなんとかもちこたえたが、帰りのバスと電車ではへろへろのよれよれ。家路のなんと遠いことよ。

2004年09月21日 火曜日

一週間の早いのには驚くばかりで、やれやれと思っているうちに授業の日が訪れる。強烈な秋の日射しを背に受けて大学の坂を登り、やれやれと坂を下れば一日が終わっている。この営みを長年にわたりしかも充実した心で続けるには、大袈裟でなく「文字の伝道師」たる覚悟が必要なのかもしれない。そう考えると、なんだかあの坂がゴルゴダの丘のように思えてきた。

 夜もすがら汗の十字架背に描き    川端茅舎

2004年09月20日 月曜日

子供とアラジンの魔法使いごっこをしているとき、ふといたずらごころを起こし「悪い願いごとを三つ叶えてあげます」と言ってみた。しばらく苦悶の表情を浮かべ「ないなあ、ないなあ」と悩んでいる。そこへ「さあ、早く悪い願いごとを言いなさい」と迫ると、身をよじるようにして息子が叫んだ。「ご、ごめんなさい、あ、あ、ありません!」。邪(よこしま)な心は、いつどのようにして芽生えるのだろうか。悪い願いごとを考えるようささやいた邪心を恥じるとともに、悪い願いごとを思いつかない童心に小さな感動を覚えた。しかし、もし悪い願いごとを口にされていたらと考えると、ちょっと恐ろしい気がしないでもない。あやうく邪心を芽生えさせるところだったかもしれないのである。

2004年09月19日 日曜日

だめもとで電話をしてみたらキャンセル空きがあるとの返事、サントリー美術館で開催中の『古代中国の文字と至宝』展ワークショップ「木簡づくりに挑戦」に参加した。ワークショップはさておき、同展の陳列品は見ごたえ充分。史料の乏しかった三国時代の副葬品が近年になって大量に発見されたことで、篆書から隷書へ移行するさまがつぶさに見てとれる。鐘よう(151-230)の楷書があまりに唐突に完成されたかたちで伝わっているのが釈然としなかったのだが、鐘ようとほぼ同時代の簡牘類に、楷書と呼んで差し支えない書きぶりの文字が見られ、西暦250年あたりを楷書の成立期と考えていいのだろうと得心することができた。きりりとした拓本の文字も良いけれど、史料的価値の高さは肉筆に遠く及ばない。悦楽の文字たち。必見です。

2004年09月18日 土曜日

焼けぼっくいにそっと息を吹きかけたらほんとに火がついてしまった。こうなったら迅速に事にあたって美しい消し炭にしてあげようではありませんか。

2004年09月17日 金曜日

鶯谷の書道博物館へ。『歴代中国皇帝の書』展。玄宗の重厚な行書と高宗の繊細な行書。高宗の千字文は真筆を見てみたくなった。運筆が明瞭なので手習いにも向いていそうだ。ナベさん岩井君と会場で待ち合わせ、近くの喫茶店で今後のカリキュラムについて話し合う。夏休みを利用して、大理石にローマの碑文を彫ったのは天晴れ岩井君。

2004年09月16日 木曜日

「酒は憂いの玉箒(たまははき)」という蘇東坡の詩句からとった店名を持つ酒場で、極上の秋刀魚と味噌漬け豆腐を堪能する。憂いではなく、念(おも)いのかけらをほうきでかき集めるようにして仲間と語らう。塵も積もれば、念いも募ればで、無数のかけらのいくつかがぴたりと合うときがいずれあろうかと思う。いや「念う」か。そのときまでは拾得のように笑みをうかべて地を掃こう。寒山やーい。

 我が心秋月に似たり 碧潭清うして皎潔たり

 独り寒山に居して 自ら其の志を楽しむ

                          『寒山詩』より

2004年09月15日 水曜日

文句あるかというくらいの秋晴れ。三人体制から四人体制の講師陣に変わったおかげで、直接担当する生徒の数が25%減少し、そのぶん心の余裕が得られている。とはいえ47人とのコミュニケーションは容易ではない。

2004年09月14日 火曜日

多摩美タイポグラフィ実習第二週目。スキャン済みの下書き文字をイラストレーターでトレースするという想定で、次の課題の腕ならしを兼ねた実践練習。ベジェ曲線の扱いは、得手不得手がはっきりと出るので、苦手意識のある生徒に時間をかけて教える。

2004年09月13日 月曜日

ぶすぶすとくすぶっていた忙しさの余燼もここにきてようやく沈静化した。しかしまだ焼け木杭(ぼっくい)が何本か残っており、風向きによってはまた火がつきかねない。なんとか延焼は避けたいところだ。要初期消火。昨晩の深酒で消化機能のほうは低下中。

2004年09月12日 日曜日

渋谷ロゴスギャラリー『印刷解体』展へ。金属活字関連のブツにあれこれ目移りしたが、結局買ったのは5号8ポ9ポの行長を計る25センチ定規一本のみ。会場で落ち合った小澤君と昼食。晴れやかな表情を見てまずはひと安心。夕方、古酒を提げてショーウンが来た。たっぷり時間をかけて話しを聞き、話しをした一日。Face to face, Heart to heart.

2004年09月11日 土曜日

書体制作。匍匐(ほふく)前進するような感じ。なんて静かな風景なんだここは。

2004年09月10日 金曜日

気味の悪いいたずら電話が二回。付近で空き巣が入ったという警察の貼り紙。どちらも心当たりがある。空き巣が入ったという前日に、隣家をねちっこく物色していた男を私は見ている。終日書体制作。

2004年09月09日 木曜日

「スタンダードへの挑戦、新しい定番の開拓。期待してます」。AXISフォント試用版の登録者が書いてくれたコメントを読んでハッとした。そう、それを目指してたんだよな。

2004年09月08日 水曜日

急勾配の丘をのぼり、繰り返し階段を昇降し、直立の姿勢で大きな声を出す。健康に良いと思われる一連の運動で、極度の疲労を覚えるというのは、ふだんの生活がよほど不健康であるという証しなのか。残暑厳しい多摩美第一週目の授業はなんとか終えた。

2004年09月07日 火曜日

多摩美授業初日。今年もついに始まった。校舎の窓から久しぶりに虹を見たのだが、頬をなでる風が生暖かく、このところ頻発している地震や台風のせいもあって、そのあまりに巨大で鮮やかな虹は、美しいというより禍々(まがまが)しさに満ちていた。

2004年09月06日 月曜日

気乗りがしないうちに始めたレクチュアの準備は、結局のところ、文字・書体・活字・タイポグラフィに関する良い勉強の機会となった。忘れてしまったこと、あいまいだったこと、知らなかったことが、あまりに多くてたじろいだ。

2004年09月05日 日曜日

歯みがきをしている最中に子供の乳歯がぽろりと抜けた。さいきん目立って伸びてきた背丈に対し、この歯の小ささときたら米粒と見まがうほどの大きさだ。すでに下から顔をのぞかせている永久歯が歯肉をやぶって痛むらしい。私は文字スキャンのしすぎで、スキャナのフタをおさえる左手の筋肉が痛む。

2004年09月04日 土曜日

書体関連の資料をスキャンして、画像をあれこれ入れ替えながら話しの流れを組み立てる。間に合うかな。夕方より雷雨。

2004年09月03日 金曜日

用意とか準備というものは、誰かのためではなく、自分のためにするものだと、来週から始まる授業の資料をかき集め、散乱した仕事場で混乱する頭は、キリキリと痛む胃をさすりつつ嘆く。

 少年は光を嗅ぐや凌霄花 (のうぜんか)    茶門

2004年09月02日 木曜日

朝一で散髪。書体制作に集中。赤ちょうちん「おかしら」にて岡澤竹下両氏と一杯。たん、はつ、おかしら、くび、レバーなど鳥フルコース、酒代こみで三千円少々、話題も文字てんこ盛りの四時間半、蚊に刺されながら。

2004年09月01日 水曜日

秋の訪れは、虫の声と夜の風にはじまる。目にはさやかに見えねども、とはよくいったものだ。まず聴覚と触覚がすばやく秋の気配に反応する。今晩の食卓にのぼったサンマと茄子も、視覚より味覚につよく訴えていることは明らかである。寺田寅彦の随筆をつまみ読み。終日書体制作。