明け方から正午にかけて遠雷。大森へ出かけるころにはお天気雨に変わり、活字地金彫り師 清水金之助氏の実演が始まる頃にはすっきりと夏の陽が射す空模様。四十九年ぶりに握る彫刻刀で、二時間近く清水氏は文字を彫り続けた。その集中力と繊細で力強い手指の動きは、四十九年の空白を気魄で埋めんとするがごとくに映った。清水さんの思い出ばなしで印象に残ったものをひとつ。毎晩九時四十分に仕事を終え、師匠と兄弟子五人と連れ立って銭湯に行くのが日課で、年功順に七人が輪になって互いの背中を洗うのだが、十四歳で弟子入りした最年少の清水さんの背中を洗うのは、師匠の馬場政吉さんだったそうである。活字地金彫り師 清水金之助氏。大正十一年日本橋生まれ。八十二歳。瑞々し。