Type Project —visible, but invisible.

2004年06月30日 水曜日

明け方から正午にかけて遠雷。大森へ出かけるころにはお天気雨に変わり、活字地金彫り師 清水金之助氏の実演が始まる頃にはすっきりと夏の陽が射す空模様。四十九年ぶりに握る彫刻刀で、二時間近く清水氏は文字を彫り続けた。その集中力と繊細で力強い手指の動きは、四十九年の空白を気魄で埋めんとするがごとくに映った。清水さんの思い出ばなしで印象に残ったものをひとつ。毎晩九時四十分に仕事を終え、師匠と兄弟子五人と連れ立って銭湯に行くのが日課で、年功順に七人が輪になって互いの背中を洗うのだが、十四歳で弟子入りした最年少の清水さんの背中を洗うのは、師匠の馬場政吉さんだったそうである。活字地金彫り師 清水金之助氏。大正十一年日本橋生まれ。八十二歳。瑞々し。

2004年06月29日 火曜日

午後二時来客あり。仕事の話しは最初の二十分ほどで、あとは書と書物をめぐる文字談義。エビニラまんじゅう、チンゲンサイ、玉子とワカメのスープ。

2004年06月28日 月曜日

雲の出入りしげく湿気甚だし。Dプロジェクトのレポートを完成させ、ロゴタイプのアイデア展開と絞り込み。今月初めに予想していた忙しさはさほどでもなく、懸案をかかえたまま来月に持ち越し。

2004年06月27日 日曜日

Dプロジェクトのレポート作成とロゴタイプのアイデアスケッチ。子供とお好み焼きをつくる。トマトとズッキーニのスープ。涼しい一日。

2004年06月26日 土曜日

午前中はロゴタイプのアイデア出し。午後から飯田橋の印刷博物館へ。『築地体の百二十年』セミナー。参加者は130人くらいだったろうか、かなりの盛況で、二十代半ばあたりの男性の姿が目立った。築地体に取り組んだ築地電子活版と字游工房だけでなく、弘道軒清朝体の覆刻を果たしたイワタや、広く和書から取材した欣喜堂今田さんの仕事など、2004年は、古典的な和文書体と対峙してきた人たちの成果が一斉に花ひらいたという点で記憶される年ではないかと思う。会場の顔ぶれを見て、次の一歩を進める新しい芽が育ちつつあることを実感した。

2004年06月25日 金曜日

雨が止んだら家族で外食、止まねば家でつつましくという約束を家人と交していたのだが、降ったり止んだりを幾度もくりかえすので、けっきょく夕方まで方針が定まらず、雨なのに外食という選択肢にない選択を余儀なくされた。合羽きて自転車こいで韓国料理屋で妻の誕生日を祝う。

2004年06月24日 木曜日

飛び入りの仕事の打ち合わせで品川へ。ロゴタイプ一本。その後、五反田の酒田屋にて有田さんと一杯。だだ茶豆、つぶ貝のやわらか煮、カツオの刺身、ホヤ、酒盗など。

2004年06月23日 水曜日

ネットで検索・注文した古書が北海道から届く。便利になったなという感慨に、本棚で偶然遭いたかったなという気持ちが入り混じる。古本屋は、私に「有り難い」という言葉本来の意味をときどき感じさせてくれる場所でもある。だから通っていた古本屋さんが店を閉じてしまったときなどは、しばし途方に暮れる。一軒の古書店の有り難さは、残念なことに、失ってはじめて気づくものなのかもしれない。

 絶へ間なき熱風に耐へ古書のありいずれ劣らぬ面構へして    さもん

2004年06月22日 火曜日

青空。仕事場にひとり。素足の甲を風がわたってゆく。グレープフルーツジュースを飲み干して仕事再開。漢字の見直しと書体のアイデアスケッチすこし。

 野のはてを素足のうへを青嵐    茶門

2004年06月21日 月曜日

凄まじいエネルギーをはらんで吹き荒れる外の台風とは対照的に、しぼんだゴムボールのように気合いが入らない。空気を注入したそばから抜けていく。暖かい湯につけておくと膨らむんだっけかな。

2004年06月20日 日曜日

桃のように滴るわけでもなく、柿のように固くもない。色は淡く味もまた淡い。正直なところそれほどうまくはない。だからたぶん需要も少ないだろうし、あまり供給もされていないのではと思う。淡白真味。まこと枇杷のゆかしさよ。

 山水の夏の初めの匂ひかな    茶門

2004年06月19日 土曜日

一部の本が黴に侵食されつつあったので、慌てて虫干し。大事な本ほど仕舞いこむ傾向にあるので、特に梅雨のこの時期には意識して風に曝したほうがよい。眼にも曝せば尚宜し。久方ぶりの再会を喜んだのは、白井晟一の『顧之居書帖』とベン・シャーンの『LOVE AND JOY ABOUT LETTERS』の二冊。昏元先生の書を包むにはこうする他あるまいと思わせる、堅牢かつ簡素な『顧之居書帖』の造本は、早川良雄氏の手による。

2004年06月18日 金曜日

「おかあはこっちの道で帰るよ」と自転車の後ろに座っていた息子が言うので、「おまえはおまえの道をゆけ、おとうはおとうの道をゆく」と答えたら、ハハハと軽くいなされた。

2004年06月17日 木曜日

資料とメモ用紙が二つの机に散乱している。レポートが書き上がるまでは放置することに決めた。視覚に関する本をマーカー片手に再読。

2004年06月16日 水曜日

研究レポートを作成するため一週間ぶりにイラストレーターに戻ったらなんとも具合が悪い。別のツールを集中的に使っていた影響で、拡大縮小の操作をついそちらのショートカットでやってしまうのだ。ポイントや曲線を扱う際にはほとんど問題ないのだが、より無意識かつ頻度の高い操作では大いにとまどう。

2004年06月15日 火曜日

資料を求めて御茶の水へ。昨日オープンしたばかりの古書店で恩地考四郎の本を購入。出足がよかったおかげで、その後も小粒ながら収穫多し。東京古書会館に立ち寄り『小出版社の冒険』展を観る。同会館地下の合同即売会では、良心的な価格で多種多様な良書が販売されていた。小額の買い物にもかかわらず、珈琲交換券を手渡され、別室の休憩コーナーにてのどを潤す。

2004年06月14日 月曜日

依頼文字の締め切り日。おとついの時点ではちょっとしんどい文字数が残っていたのだが、夕食までになんとか上がった。金目鯛、キャベツのスープ。アスパラとジャガイモの炒めもの。ひと箸ごと味わって食べる。

2004年06月13日 日曜日

iBookでの書体制作はさすがに能率が悪く、依頼分の遅れを取り戻すため終日文字と向き合う。密度の高い名古屋での三日間だったが、疲れは軽微。涼しさも手伝って、むしろ心地よい。

2004年06月12日 土曜日

名駅地下の喫茶店で愛知芸大院生I 君の現状報告を聞く。そのあと名古屋ジュンク堂で待ち合わせたのりと夕食。七年ぶりの再会を喜ぶ。知り合ったのは16歳のとき、二十年来の友人ということになる。大学浪人中の灰色の時間と空間を共有した友人でもある。もし19歳の自分に会うことができるなら、そんなに深刻に考えなくていいんだよと肩をたたいてあげたいね、と二人で笑いあう。午後八時発の新幹線に乗り帰京。車中で『アイデア』誌を開く。タイプデザイン特集を読みきるまでに東京・名古屋往復の三時間がかかった。

2004年06月11日 金曜日

名古屋郊外にて仕事の打合わせ。模擬実験を行い、それを元に意見を出し合う。仮説を持って模擬実験に臨んだが、見事にこちらの想定をくつがえされた。仮説の修正と仕事の展望について腰を据えて話し合う。模擬実験に加わってもらったオブザーバーの存在も大きかった。

2004年06月10日 木曜日

名古屋出張。上前津・鶴舞間の古本屋をひとめぐりし、友人の事務所開きを祝うパーティに顔を出す。あまりに立派なオフィスにたじろいだ私と川島は、体勢を整えるため一時スターバックスへ避難。意を決して再び垂見オフィスへ戻ると、心細げな顔つきの森野が立っていた。

2004年06月09日 水曜日

夕方『アイデア』誌が届く。特集「タイプデザイン・トゥデイ〜欧文書体設計の現在」。特集というより丸ごと一冊タイプデザイン、雑誌というより書籍のような凝縮度だ。果汁90%以上の濃さ、水で薄めなかった英断に拍手を送りたい。ジャン=フランソワ・ポルシェの聞き手として私の名前もクレジットされています。6月10日発売です。タイプデザインに関心のある方、ぜひご一読ください。

2004年06月08日 火曜日

仕事場に籠りきりで書体制作。海外のネット書店で注文した本が相次いで届く。『THE BIG KAN ATLAS』『New book design』『Type now』『dutch type』の四冊。『dutch type』は図版が豊富で、オランダタイプデザインのユニークさと層の厚さが感じられる。『THE BIG KAN ATLAS』はインフォメーショングラフィックスを取り扱うデザイナーにおすすめします。註に使用されているHelvetica Lightが読みにくいのがちょっと残念。書体が悪いのではなく、Helveticaを小さなサイズで使うほうが悪い。字間が狭すぎるし、大文字が目立ちすぎる。ディスプレイでは魅力に数えられる点が、本文や註ではあだとなる。電子活字を作る側はもちろんのこと、電子活字を使う側にとっても、文字に対するサイズ感覚はたいへん重要な感覚に違いない。アプリケーションの利便性はある種の感覚を確実に鈍らせるが、使いようによっては研ぎすませもする。サイズ感覚を「場に対する感覚」と言いかえてもよい。文字の置かれる場所と文字の使われている場面を活きいきと思い浮かべることができるかどうか。活きいきと在りありと。

2004年06月07日 月曜日

梅雨。終日依頼文字の制作。ようやくツールにも慣れ、テンポよく仕事が進む。

 紫陽花の路地 細々と深々と    茶門

2004年06月06日 日曜日

水疱瘡の兆候があらわれた息子を休日診療所へつれていく。ドアを触るんじゃないぞと言い聞かせ、診療所の外で息子を待たせておく。受付で事情を説明し、息子を待ち合い室へ招き入れつつ念を押す。「いいか、どこも触るなよ」。それでも壁や椅子になんとなく手が伸びてしまうので、そのたびに私に注意される。「コラ、他の人に伝染るとまずいから触るんじゃない」。そのまま隔離室に入っていく親子を、待ち合い室の人たちは恐ろしげな視線で見送ってくれたものでした。そりゃ怖いですよね。どんな病気を伝染されるかと思うもの。

2004年06月05日 土曜日

午後三時、石神井書林へ。滝口修造と北園克衛の本を内堀さんにお借りする。烏龍茶を飲みながら古本と活字をめぐる雑談を二時間半ほど。一年前、千夜千冊に内堀さんの『ボン書店の幻』が登場した。松岡正剛は冒頭で本書を次のように紹介した。「こういう本を、こういうふうに書ける眼差しが、書物文化や出版文化の底辺を支えているのだろうと思う」。結びの一文はこうだ。「気高さ。ときに一冊の詩集を刊行することが、なによりも気高いことがあるものなのである。」あすは北園克衛の命日だ。

 朝顔のちぎれながらに咲きにけり    北園克衛

2004年06月04日 金曜日

夕方、ユウキがお泊まりにやってきた。ごたごた荘でもっとも手荒な歓迎をしてくれる子なのだが、今日はすこしばかり勝手が違うようで照れくさそうにしている。晩ごはんを食べさせ、お風呂に入れて、息子と遊ばせ、布団に入れたら、あっという間に眠ってしまった。終日追加文字の制作。

2004年06月03日 木曜日

追加依頼分の文字制作。満月、ビール、とうもろこし。

2004年06月02日 水曜日

『八大山人〜人と芸術』を読む。八大山人の画を評して「精簡」という。精しくて簡素。司馬遼太郎が『微光のなかの宇宙』で、八大山人の魚児図について次のように書いている。「わずかな線を用い、魚体を淡く暈しているだけの絵なのだが(中略)あきらかにその白の内部に浮袋が蔵せられ、魚体の浮力がそこから出ていることが眺めていてありありとわかるのである」。簡素なのに精しい。そこに司馬遼太郎は驚嘆した。

2004年06月01日 火曜日

複数の案件で「待ち」の状態。一斉に波が押し寄せてこないことを祈りたい。無駄な動きを減らし充電を心がける。床屋と銀行に行き、身支度を整え臨戦体制。