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書籍案内

おススメ本008

『俳句と地球物理』 寺田寅彦 角川ランティエ叢書 1997

牛頓(ニュートン)というひねった俳号で多くの俳句を残した寅彦は、漱石に近づきたいために俳句を始めたようなフシがある。連句を音楽や映画と比較してみせる手法は、寅彦以後、同種の論考を見かけないところから、現在でもユニークな視点だということが伺い知れる。芭蕉の、

 五月雨を集めて早し最上川
 五月雨や色紙へぎたる壁の跡

を解した、科学者寅彦の次のような言葉に私は唸った。「前者は梅雨の雨量と、河水の運動量(モーメンタム)を、数字を用いずして数字以上に表現して居り、後者は湿度計を用いずして煤けた草庵の室内の湿気を感ぜしめ、黴臭い匂いを暗示する。(中略)映画ならば前者はロングショット、後者はクローズアップである。」
引用した文中の「暗示」というキーワードは、俳句初心の寅彦に語った漱石の次のような言葉が活きている。「俳句とは扇のかなめのような集中点を指摘し描写して、それから放散する連想の世界を暗示するものである。」
そう、これはまさしく『草枕』の世界だ。
(2002.2/27)