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書籍案内

おススメ本005

『文章読本』谷崎潤一郎(1934)から井上ひさし(1984)まで

1-1.『文章読本』谷崎潤一郎 中公文庫 1975 (1934 初出)
谷崎が文字の視覚的効果について周到な作家だったことが、この一書からだけでもよくわかる。その後に続く他の『文章読本』と比較しても、字面や活字に関する言及は最も多い。「我が国の如く美術的な文字を有し、楷、行、草、隷、篆、変態仮名、片仮名等、各種の字体を有する国が、それらの変化を視覚的要素に利用しないのは、間違っております」「隷書行書等は、(中略)もっと応用の範囲を拡めるのがよいと思います」とも書いている。『文章読本』のさきがけとして、岩波文庫『露伴随筆集(下)』に収められている幸田露伴の『普通文章論』(1908)も挙げておきたい。

1-2.『文章読本』中村真一郎 新潮文庫 1982 (1975 初出)
口語文の成り立ちを丁寧かつ明快に語る。豊富な文体サンプルを読みながら近代日本文学史の展開を通覧するにはもってこいだ。漢文と和文、欧文と和文、文語と口語、それら異質な要素をどのように融合するかという難問に近代作家たちははどう向き合ったのか。それはまた日本語表記や組版や活字の工夫の歴史でもある。

1-3.『文章読本』丸谷才一 中公文庫 1975 (1977 初出)
谷崎は、和文脈欧文脈という言葉で明治以降の日本語文をとらえた。和文脈の典型ともみえる谷崎の文章の骨格が、実は欧文脈であることを指摘したのは丸谷である。中村『文章読本』は近代に的を絞って効果をあげたが、丸谷は古典文学も対象に入れ、かつ楽しく読ませる。「人は好んで才能を云々したがるけど、個人の才能とは実のところ伝統を学ぶ学び方の才能にほかならない」「われわれの文章のあつかわなければならなぬ主題はおびただしく、われわれの文章の伝へねばならなぬ気分は数多い。それゆゑ必然的に文章の手本は多種多様でなければならない」

1-4.『自家製 文章読本』井上ひさし 新潮文庫 1987 (1984 初出)
丸谷は自分の『文章読本』を、『わたしの表記法』という丸谷らしい章で締めくくったが、井上ひさしはまず『自家製』とことわったうえで『文章読本』をはじめた。とりあげる文章の領域は丸谷よりさらに広く、刑法の条文から商業文にいたるまでを縦横に往き来する。字姿(じすがた)ということばを使ってみたり、字面にゲシュタルトとルビを振ってみたりと井上の文字感覚も楽しめる。振仮名、句読点などを取り上げた『私家版 日本語文法』も新潮文庫に入っている。

(2001.9/11)