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書籍案内

おススメ本004

『芭蕉雑記』(『西方の人』所収)芥川龍之介 角川文庫 1968

芥川は業俳顔負けの句を作ったが、生前に残した句集は一冊きり。しかもたった七十七句を収めるのみである。理知的な句も多いが、下記のような句には鋭敏な感覚が冴え渡る。四句目は辞世の句といってよい。

 木がらしや目刺にのこる海のいろ

 元日や手を洗ひをる夕ごころ

 初秋の蝗(いなご)つかめば柔かき

 水洟(みずばな)や鼻の先だけ暮れ残る

短い章立てで構成された『芭蕉雑記』には、芭蕉の次のような言葉が引かれている。
 「書きやうはいろいろあるべし。唯さわがしからぬ心づかひ有りたし。『猿蓑』能筆なり。されども今少し大なり。作者の名大にしていやしく見え侍る。」
そして芥川はこんな想像をしてみる。
 「芭蕉が今日に生まれたとすれば、やはり本文は九ポイントにするとか、表紙の布は木綿にするとか、考案を凝らしたことであらう。或は又ウイリアム・モリスのやうに、ペエトロン杉風とも相談の上に、Typographyに新意を出したかも知れぬ。」

芭蕉があと五六十年はやく生まれていて、光悦や宗達と出会っていたとすれば、と想像を広げてみたらなお興味深い。おそらく芭蕉は、嵯峨本の絢爛に対し否を唱え、ダンディな造本を要求したに違いない。活字の様態にすら口を出していただろう。芭蕉以前の俳書は、華美な装幀を好んだのにもかかわらず、芭蕉以後は簡素の中に寂びを尊んだという。

(2001.9/11)