AXISフォント掲載記事
エクスクルーシヴ・フォントの試み
雑誌『AXIS』専用フォントをデザインした鈴木 功さんに聞く
DTP WORLD別冊『フォントスタイルブック2002』(ワークスコーポレーション発行 2002年2月発売)の記事より転載 取材:
古賀弘幸
デザイン雑誌『AXIS』がリニューアルに際して採用した「AXISフォント」はタイプデザイナー鈴木功さんの作品。毎年たくさんの数がリリースされる、デジタルフォントの中でどこが新しいのだろうか?
今までのアプローチとは違ったフォントデザインができないか
■モダンながら暖かみを持った新しい表情
「エクスクルーシブ」とは「専用の」とか「限定された」といった意味。「エクスクルーシブ・フォント」とは特定の新聞や雑誌のみにしか使われないフォントのことを指している。日本では新聞、辞書、一部の企業などを除いてエクスクルーシブ・フォントが開発されることはあまり多くないが、欧米では雑誌の創刊やリニューアルに際して専用のフォントが開発されることが珍しくない。
もとアドビに在籍し、小塚昌彦氏の下でフォント開発に関わっていた鈴木功さんが、エクスクルーシブ・フォントを開発する動機も、ドイツの雑誌『フォルム』がリニューアルに際して、エクスクルーシブ・フォントを開発したことがきっかけになっているという。
「今までのアプローチとは違ったフォントデザインができないかと思っていました。文字をデザインする作業は抽象的な作業ですから、実際にその文字がどういうふうに使われるのかは想像しにくいんですね。するとウエイトをどうするのか、この細部をどうするのか、といったことを具体的に絞り込みにくい。どんなテキストをどんなふうに使うのか、ということを確かめながら書体を作りたかったんです」。
そこで鈴木さんは1999年3月、デザイン雑誌『AXIS』にアプローチを試みた。同誌はもともとDTPに対する積極的な取り組みで早くから知られているメディアだ。1992年にはPage MakerによってフルDTPを実現、同時にテキストのバイリンガル化を全面的に導入している。
『AXIS』のアートディレクター・宮崎光弘氏は「『AXIS』ではフォントについてはさまざまな試行錯誤をしてきました。1994年には本文書体に新ゴシックを採用しましたが、DTPの普及に伴って新ゴはさまざまな雑誌で爆発的に使われ始めたために、もっとオリジナリティーがほしいと思っていた時期でした」と語る。
そんな事情から、宮崎氏と当時のアートディレクター・大田浩司氏は「AXISフォント」のプロトタイプ(原型)に積極的に興味を示し、2001年9月のリニューアルに向けて本格的な開発が始まった。
デザインのコンセプトは「『AXIS』が扱う幅広いテーマ、バイリンガル表記、ほぼ全面的に横組であること。もうひとつ、それまで本文で使われていた新ゴとの関係も重要でした」(鈴木さん)。数年間にわたって本文に使われてきた書体はすでに読者の目になじんでいる。抵抗感を感じさせずに新しくしていくことがポイントだったという。全体の構成は7ウエイト、中心になるのは本文用の「Light」だが、和文には珍しい「ウルトラライト」も含まれている。欧文はタイプデザイナーとして海外でも著名な小林章氏に依頼、和文のかなとマッチした、モダンで親しみやすいサンセリフ書体がデザインされた。
編集部と協議しながら、およそ2年間にわたって組版テストなどを繰り返し、修正が重ねられた。実際に採用された『AXIS』の誌面を見ると、基本的には横組を強く意識したモダンな表情のゴシック書体ながら、とくにかな・カタカナを見ると、抽象的で人工的なイメージの強い、新ゴとはずいぶん異なっている。軽くて温かみのある書体だ。「ゴナや新ゴといった書体では、横のラインを美しく見せることに大きなポイントがありますが、本当にそれが読みやすさにつながっているのだろうかという、問題意識がありました。AXISフォントでは、たとえば〈ら〉なら〈ら〉らしい曲線、文字本来のストロークをなるべく残そうとしています」。
宮崎氏は「雑誌にとって本文書体は〈水〉のようなもの。AXISフォントはその意味でも完成度の高い書体です。現在は『AXIS』専用ですが、和文の新しい試みとしてほかのメディアにも広がっていってほしいですね」と語る。リニューアル後、書体に関する問い合わせも多いという。特定のメディアから出発して、次第に裾野を広げていく。AXISフォントは、日本語フォントの新しいあり方を示唆しているのかもしれない。
鈴木 功 1967年名古屋生まれ 愛知県立芸術大学デザイン科卒業。93年から2000年までアドビシステムズに在籍。2001年にタイププロジェクトを設立、フォント開発などを手がける。
AXISフォント初期のスケッチから。学生時代から漢字に興味があり白川静氏の古代文字についての研究に傾倒したという。
創刊20周年を迎え、リニューアル2号目の『AXIS』95号から。何度ものリニューアルを経て、現在はIn Designで組まれている。
アートディレクター・宮崎光弘氏。「『AXIS』では単に流れていくデザインとは異なって、ストックされていくデザインも重要だと考えています。その意味でAXISフォントは雑誌のコンセプトに近いものですね」。