Type Project —visible, but invisible.

タイプデザイン

AXISフォント掲載記事

(AXIS誌93号September/October 2001創刊20周年記念号より転載)

雑誌の“声”をつくる――AXISの新書体デザインプロジェクト

文/稲本喜則

お気づきだろうか。今手にしているリニューアル号から、AXIS誌の使うメインの書体が変わったことに。この書体の名前は、「AXIS」。作者は、フリーのタイプデザイナーである鈴木 功氏である。名前からもわかるように、この書体はAXIS誌で使うことを前提につくられている。

 「AXIS」フォントのプロジェクトは、1998年に始まった。鈴木氏が新しくつくり始めた書体について意見を聞きたいと、アクシスのデザイン部門を訪れたことがきっかけだった。両者の間でやりとりを行ううちに、いっそAXIS誌で使うことを前提に書体を設計し直してはどうか、と話が進んだのである。
 日本では、大新聞は別として、一雑誌が専用書体を持つことは珍しい。新しい書体をデザインするとき、欧米と違い、JISの第二水準までで、約9千もの文字をつくらなければならないからだ。
 しかし、専用書体を持つメリットはある。新しい書体を使い始めることは、新しい“声”を持つことに繋がるのである。
 書体の特徴は、しばしば声の性質に例えられる。同じ言葉を語っても声によって印象ががらりと変わるように、書体によって読み手の受け取るニュアンスは随分と違ってくる。落ち着いた飾らぬ印象の書体、目を引く騒々しい書体、力強く重々しい書体、軽妙で洒脱な書体……読み手がはっきりと気づくかどうかはわからない。しかし、知らず知らずのうちに、書体から、ある種の情緒的な情報を受け取っているはずである。
 AXIS誌の場合、これまでサンセリフ(セリフ、いわゆる“ヒゲ”のない書体)系の日本語本文書体には、もっぱらモリサワの「新ゴ」を使ってきた。新ゴはもちろん優れた書体である。また、AXIS誌のデザイナー陣は、組み版の設定を工夫したり、欧文書体と混植したりと、上手に新ゴを使いこなしてきたと思う。
 しかし、新ゴはあまりに普及してしまった。DTPで扱えるモダンなサンセリフ書体としては最も完成度が高いのだから、それは当然の結果だろう。だが、その結果、雑誌の語る“声”は、頻繁に他で聞く“声”と同じになってしまった。また、新ゴはややポップな性格の書体で、シリアスな内容の記事では少し違和感を生むケースもあった。
 今回のAXISフォントも、モダンなサンセリフ書体だ。しかし、新ゴに比べると、落ち着いた表情を持っている。レターフェイス(サイズに対し、文字が描ける最大範囲の意)も小さめで、組んだとき、新ゴほどぎっしり詰まった感じにはならない。
 最初から完成度の高い和欧混植を目指したことも、AXISフォントの特徴だ。AXIS誌はバイリンガルで、海外にも輸出されている。欧文書体には、英語をネイティブとする読者にも受け入れられる、高いクオリティが求められるわけだ。一方で、和文の中に欧文が混じることも多い。両者がきれいに溶け込むことが必要になる。
 この点、欧文の制作を担当した小林 章氏(現・ライノタイプヘル社タイプディレクター)のプロジェクト参加は、大きかった。欧文書体の作者として高い評価を得ているとともに、日本人タイプデザイナーとして、日本語の中に入ったときの欧文の感覚が理解できるからである。和文を担当した鈴木氏と、欧文を担当した小林氏は、度々意見交換をして、和文と欧文のすり合わせを行った。結果として、AXISフォントの欧文書体は、欧文だけで用いても高品位だが、和文に混じったときもすっと馴染むという、優れたものとなった。
 当たり前のように聞こえるかもしれないが、AXISフォントの個性は、AXIS誌の個性から生まれた部分が大きい。本文はどのくらいの大きさで組まれるか、見出しは、キャプションは……。文章中、ひらがな、カタカナ、漢字、欧文はどういう比重で使われているか……。「あらかじめ条件が決まっているので、デザインの落ち着きどころがわかりやすかったです。普通、タイプデザイナーはもっと漠然とした状況で書体をつくっていかなければなりませんから」と、鈴木氏は語る。
 ある程度書体が完成した時点で、AXIS誌の実際のテキストで組んでみるテストを行い、仮名にデザイン調整を加えている。AXISフォントは、文字の大きさや、詰め具合、ひらがな/カタカナ/漢字/欧文のバランスなど、AXIS誌の文字組みの条件で最適な結果を得られるように仕上げられているのだ。
 いや、そもそもタイプデザイナーの頭の中には、AXIS誌で書かれるような言葉、文章、内容が置かれていたはずである。AXIS誌に載るようなテキストを語るにはどんな書体がいいのだろうか? AXIS誌にふさわしい語り口とはどんなものだろうか? 雑誌の“声”をつくるとは、そういう作業だと思う。
 AXISフォントには、和文書体には珍しいULTRA LIGHTから、極太のHEAVYまで、7ウェイトが揃っている。見出し、本文、キャプション、英文、すべてに対応できる。
 日本の雑誌のエディトリアルデザインではさまざまな書体を混ぜて使う場合が多い。デザイナーが見出し、本文、キャプションとしてそれぞれ別の書体を選ぶせいもあるが、書体のファミリー化が未熟だったせいもある。
 AXISフォントの場合は、この書体だけでまるまる1冊を構成することもできるわけだ。これをどう使いこなすか。この“声”を使って、何を表現するか。次は、AXIS誌のデザイナー陣が腕を見せる番だろう。