Type Project —visible, but invisible.

タイプデザイン

AXISフォント制作記録

2. AXIS Font 長体への展開

2-1. AXIS Fontのファミリー構成

AXIS Fontの長体、すなわちAXIS CondensedとCompressedの構想は最初からありました。「なぜ和文には字幅のバリエーションがないのだろう」という素朴な疑問があり、いつか取り組んでみたいと思っていたのです。正体の開発段階から字幅の展開を想定してデザインを進めていたおかげで、コンデンスをつくるときに無理のないかたちを採ることができました。特に曲線の多いひらがなでは、その効果が大きかったように思います。

字幅のバリエーションをもつファミリー構成のモデルとしては、Universを念頭におきました。雑然としていた欧文のファミリー展開を一定の規則で秩序立てた最初の書体であり、世界で広く支持されているUniversに範をとるのが好ましいと考えたからです。ファミリー構成やウエイトの名称だけでなく、画線の太さについても、微調整なしである程度のマッチングが取れるように設計してあります。

「和文エクスクルーシヴフォント(専用フォント)×字幅ファミリー」の提案をアクシス社に持ち込んだのは、アクシス社以外に興味を持ってくれそうなところが他に思い当たらなかったからですが、ウエイトや字幅をファミリーの「軸=axis」と呼ぶことがあり、この構想を実現するのにいかにもふさわしい会社だという思い入れもありました。

2-2. コンデンス(長体)の必要性

長体変形をかけたとき、とりわけはっきり悪影響が出るのがゴシック体です。なぜなら、ゴシック体は縦画と横画が同じ太さに見えるように設計されているため、横方向に圧縮すると縦画だけが細ってしまうからです。長体変形の度合いをきつくするほど、本来意図されていた縦画と横画のバランスがくずれていくのです。

「なぜ和文に字幅のバリエーションがないのか」という疑問については先に書きましたが、あまりに無造作な長体変形がそこかしかで行なわれているにもかかわらず、長体ゴシックを要望する声がないことが不思議でなりませんでした。「日本語組版は全角ベタ組が合理的で美しい」あるいは「画数の多い漢字を長体でつくるのは無理がある」という意見には一理あります。しかし、著名なタイポグラファでさえ、長体変形をかけたゴシック体を自著につかっているという現実をどう説明すればいいのでしょうか。

「ソフトウエアの機能で長体にできるから和文コンデンスは不要」とする立場を、すくなくとも書体設計者は取るべきではないというのが私の考えです。変形機能の便利さを否定するのではなく、「情報空間の効率化をはかる機能を備えた和文フォント」を開発することで、自らの疑問にこたえることにしました。

実はAXIS誌は、AXIS Fontを採用するまえに、バイリンガル表記の欧文部にUnivers Compressedを使っていました。その影響もあってか、「AXIS Fontに変わったことで欧文部の情報量を減らさざるを得ない」という編集者の声を耳にしました。遅まきながらこのときコンデンスの実質的な役割について再認識したのです。そして私は、AXIS Font スタンダードのリリースを見届けて、すぐにコンパクトシリーズ(長体シリーズ)の制作に取りかかりました。

2-3. 新しいパートナー

コンデンスを製作するにあたって最初の問題は、欧文のデザインを誰に依頼するかでした。スタンダードの欧文デザインをお願いした小林さんは、AXIS Fontの完成を見ることなくドイツのライノタイプ社へと発ってしまっていたからです。欧文デザイナーの心当たりがないまま、AXIS Fontを発表した翌月にタイププロジェクトのサイトを立ち上げ、サイト内に登録制のコミュニティを設置して、とりあえず和文のデザインを先行することにしました。

サイトの開設から三ヶ月、タイプコミュニティ8番目の登録者が、いま私のとなりで欧文デザインを担当している岡野邦彦です。コミュニティを通じて親交を深めるなか、彼にAXIS Condensed のデザインを頼むことに決めました。期待にたがわぬ熱心な姿勢は、スタンダードをデザインした小林さんからも認められ、Condensedの欧文サンプルを見た宮崎さん(AXIS誌アートディレクター) から賞賛の声をいただいたのはうれしい出来事でした。

そして、次に記す数々の問題に体当たりで取り組んでくれたのが、アドビ時代の仲間であり、タイププロジェクト最初のコアメンバーである小澤裕(ゆたか)でした。技術に対する理解と文字への熱い思いを秘めた彼には、デザインとエンジニアリングの架け橋となってもらうべく、「ブリッジ」という役割を担ってもらうことにしました。AXIS Compactシリーズの開発から2年が経過したころ、技術的な問題で行き詰まっていた2005年7月のことです。その月の終わりには、二人目のコアメンバーとして岡野が大阪から馳せ参じ、三人体制でのタイププロジェクトがスタートしました。

2-4. 数々の問題

最初の問題は、漢字と仮名を同じ字幅でつくったことが原因でした。全角(正方形)からの脱却というテーマばかりに目がいってしまい、等幅であることについては十分な検証をしていませんでした。サンプル文字ではうまくいっていたように見えたのですが、16ポイントくらいのサイズで文章を組んだときに、画数の多い漢字が窮屈になっていることが気になりだしました。最終的には、漢字80%に対して仮名を76%の字幅に変更することで問題の解決をはかりました。

もうひとつの問題は、アームの折れです。アウトラインフォントの主要なフォーマットであるType1フォーマットでは、1文字1000メッシュで描くことが推奨されているため、字幅の狭いCondensedとCompressedはアームを短くせざるをえず、結果としてアームの制御がたいへんむずかしくなり、場合によっては「折れ」というかたちで問題が顕在化してしまったのです。技術的に回避する方法をいくつか試みましたが、最終的には、折れやすい傾向を持つ文字をつくりなおすという手間のかかる作業でこの問題を解消しました。

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