AXISフォント制作記録
3. AXISフォントのデザイン
1999年3月に初めてAXIS社を訪れてから、アートディレクターの大田さんとは、AXISフォントに関するやりとりを、メールでおこなっていました。エディトリアルの現場からあがってくる大田さんの意見は、カギカッコのかたちや、和文と欧文のマッチングに関する具体的な内容のものでした。AXISフォントの制作は急ピッチで進み、月に一度くらいのペースで、私は六本木のAXISビルを訪れるようになっていました。
3-1. コンセプト
『AXIS』誌で使用することを前提としていますから、まずは『AXIS』誌の書体はどうあるべきかというところから検討を始めました。基本的にはプロダクト系のデザイン誌ですが、取り上げるテーマは、建築、伝統工芸、情報デザインなど多岐にわたります。さらに、二か国語表記というところが『AXIS』誌の大きな特徴です。幅広いテーマと、バイリンガル表記、この雑然としてしまいがちな情報を、いかに統一感のあるものにするかという課題に、書体がどう貢献できるのか。それがAXIS書体のコンセプトを決定する土台になっています。誌面がほぼ全面的に横組ということも、書体のスタイルを左右する重要な条件でした。
3-2. 欧文の依頼
『AXIS』誌は海外にもかなりの読者を持っていますので、バイリンガル表記の欧文には、高い品質のものが必要です。おおよそのコンセプトが固まると、欧文のデザインを小林章さんに依頼をすることに決めました。小林さんは、日本でよりもむしろ欧米でよく知られた欧文タイプデザイナーです。小林さんと知り合ったのも先に紹介したポルシェと同じく1997年のATypIでした。
1999年の4月、AXIS TYPE PROJECTの主旨を小林さんにお話し、その後、AXISフォントの欧文デザインを正式に依頼しました。幸い小林さんとは職場も自宅も近かったおかげで、ひんぱんに会って意見を交わすことができました。プロトタイプの段階から、AXIS和文のデザインを小林さんに見てもらっていたので、和文と欧文の相性はいいものになったと思います。私が小林さんに出したリクエストは、
1. Frutigerほどエレガントでなく、Metaほどクールでない
2. X-ハイトは高めに。仮名の大きさ、ふところの具合とのマッチング
3. ややコンデンス気味に(Metaよりはやや広く)
というものです。和文プロトタイプのデータをお渡しして、欧文の具体的なデザインについては、小林さんの解釈にお任せしました。AXISフォントの制作期間中、小林さんの欧文を見ることが楽しみのひとつでした。書体制作は地味な作業が続きますので、うっかりするとルーチンワークになってしまいがちです。そんななかで、小林さんとの共同作業は、新鮮な空気を書体にとりいれる貴重な時間でした。そして2000年7月末、AXIS欧文は完成しました。
3-3. テキストとサイズ
『AXIS』誌のテキストは、6pt弱のキャプションと8pt弱の本文がメインですので、そのサイズでもっとも読みやすいということを重視しました。組版テストは主にこのサイズを中心におこなっています。組版テスト用の文章も、『AXIS』誌で実際に使用されたテキストをつかって、キャプション、本文、見出し、目次などをそれぞれ『AXIS』誌と同じサイズで組んで検討しました。
3-4. ウエイトの決定
『AXIS』誌の本文とキャプション用に設定したAXIS Lightは、それまで『AXIS』誌で使われていた新ゴシックLとほぼ同じのウエイトにして、読者の目になじんだ誌面の印象が大きく変化することを避けました。ただ新ゴよりも字面が小さいぶん、字間がややあいた印象にはなっているかもしれません。詰まり気味の字間、アキ気味の字間。好みの別れるところでしょう。
一番細いウエイトをどれくらいにするかを決めかねているところに、友人があるCDを見せてくれました。そのCDとは、宇多田ヒカルの『First Love』です。タイトルには、Helvetica Neue ExpandedのUltra Lightが使用されています。そのなかに一曲だけ石井細ゴシックを使って組んだ日本語のタイトル曲が入っていて、そこだけウエイトが合っていません。なぜウエイトが合っていないかというと、そこまで細いウエイトの和文サンセリフがなかったからでしょう。その細さをカバーするウエイトの和文が必要ではないかと考えて制作したのが、AXISフォントのUL(ウルトラライト)です。
1000ポイントで打ったときの線画の太さを比較
中ゴシックBBB 70pt
新ゴシックL 60pt
AXIS L 59pt
ヒラギノ角ゴシックW1 45pt
AXIS UL 20pt
Helvetica Neue UL 20pt
Linotype Univers UL 20pt
※計測に使用した文字は、和文"お"の縦画、欧文"H"の縦画
『First Love』がリリースされる以前からHelvetica Neue ULはよく使われていましたが、リリース後はさらにひんぱんに見かけるようになりました。見出しには太いウエイトというセオリーをやぶった極細ウエイトの見出しにインパクトがあったのかもしれません。極細ウエイトの和文がないせいで、欧文ばかりが使われたということもないでしょうが、日本語にもがんばってほしいというひそかな思いを、AXISのウルトラライトに込めています。しかし、Ultra Lightはあまりに細いので、10pt以下あるいは印刷の状況によっては、それより大きなサイズでも線がとんでしまう可能性があります。そのUltra Lightをサポートするウエイトとして、Extra Lightを設定しました。UL,ELともに、見出しで使用されることを想定しています。
一番太いウエイトのHeavyはどのように決めたかというと、『AXIS』誌の見出しで使われていたMB101 Boldをカバーする太さということで、すんなり落ち着きました。ただ、MB101よりも*カウンターが狭いため、小さいサイズでは文字が黒くつぶれてしまう可能性があります。Boldは、小さめの見出しで使用してもらうために用意しました。
*カウンターとは、例えば"田"の字の線画に囲まれた四つの白い部分をさします。
AXISフォント7ウエイトの主な使用目的と使用サイズの目安
UL(ウルトラライト)見出し(10pt以上での使用が目安)
EL(エクストラライト)見出し、本文(8pt以上での使用が目安)
L(ライト)本文、キャプション(5pt以上での使用が目安)
R(レギュラー)本文、キャプション(5pt以上での使用が目安)
M(ミディアム)本文、キャプションの強調部分(8pt以上での使用が目安)
B(ボールド)小見出し、中見出し(10pt以上での使用が目安)
H(ヘヴィ)中見出し、大見出し(12pt以上での使用が目安)
雑誌一冊をひとつのファミリーで組むのに過不足ないウエイトのバリエーション、という方針でAXISフォントのウエイトファミリーを決定しました。
3-5. 結び
『AXIS』誌を想定することで、確かな手ごたえを感じつつ制作を進めることができました。しかし、特定の媒体を想定してつくられたはずの書体が、その媒体にふさわしくなかったら‥‥。はたしてAXISフォントは、『AXIS』誌の読者に受け入れられるかどうか。