ニュース

やっとかめ文化祭DOORS トークイベント「旅するなごや学」鈴木功×平井秀和

やっとかめ文化祭DOORS トークイベント「旅するなごや学」
鈴木功×平井秀和

名古屋文化を堪能できるイベント「やっとかめ文化祭 DOORS(2025年10月25日~11月16日)」のデザイン都市なごや連携企画・トークイベント「旅するなごや学」に鈴木功が登壇いたしました。

第1部の鈴木の講演では、リテールフォントやカスタムフォント、四季フォントシリーズなどタイププロジェクトの取り組みについて講演しました。様々な事例をご覧いただきながら、フォントによって伝わるイメージや感覚―たとえば「甘さ」「温度」「音」など―の違いについて解説しました。続けて、本日の本題である「都市フォント」について紹介しました。

鈴木:「都市フォント」とは、都市のアイデンティティを強化する活用を目指して、それぞれの街が持つ文化的・社会的・経済的な価値を反映させたフォントです。金シャチフォントは、漢字の起筆に金シャチの反り、終筆には名古屋城の破風を取り入れました。金シャチフォント 姫は、柔らくたおやかでいて、派手すぎないプチゴージャスな雰囲気を感じ取れるかと思います。金シャチフォント 殿は名古屋の武将をイメージしたフォントです。これらは名古屋土産のパッケージやバンテリンドームのバナーなど、名古屋らしさを表現した書体として広くお使いいただいています。

第2部では、名古屋在住のデザイナーであるピースグラフィックス 代表・平井秀和氏よる「伊豆花遍路 手ぬぐいスタンプラリー帳」や、発酵食品の店「八幸八」などのデザインワークのご紹介でした。いずれも地域に根ざしたユニークなプロジェクトです。名古屋に関連するデザインとしては、喫茶店「イトウ珈琲喫茶室」や、青柳ういろうで知られる「青柳総本家」のブランディングにも携わっておられます。

平井氏:何かに特化しているわけではなく、パッケージやロゴ、ポスターや本など、本当にさまざまな仕事をしています。京町家を改装した宿泊施設「きょうの家」のロゴは、実は明朝体とゴシック体を混ぜています。「イトウ珈琲喫茶室」のロゴでは、文字をぐしゃっとさせてみたらすごく可愛くなりました。綺麗に文字を組むことよりも、『下手でもいいから記憶に残ってほしい』と思って作っています。

第2部の後半はユネスコ・デザイン都市なごや推進事業実行委員会の江坂恵里子の進行により、それぞれ制作過程のスケッチブックを持ち寄りながらのクロストークとなりました。

江坂氏:ここからはお二人に、より深いお話を伺っていきたいと思います。鈴木さんから今回、「平井さんとお話がしたい」とご要望をいただきました。

鈴木:平井さんが非常に面白い文字作りをされていたので、今日を楽しみにしていました。一番面白かったのは、『記憶に残る』という点ですね。僕らは逆で、情報が届くことが必要だと思っているので。記憶に残らないフォントの方が良いという気持ちがどこかにあるんです。なので『綺麗になっていないからこそ記憶に残る』という言葉が、僕の中で非常に刺さりました。

平井氏:クライアントが想定するものは、大抵どこかで見たことのあるものばかり。それをそのままやると、結局似たような仕上がりになって覚えてもらえないんです。だから、『こういうのがいいですよ』と提案していくスタイルです。

鈴木:平井さんは制作の中で、手で描くだけでなく、彫ったり印刷したり、ぐしゃぐしゃにしたり、さまざまな手法を試されていますよね。どのように制作を進めているのでしょうか。

平井氏:まず一番大事にしているのはアイデアです。物事は『アイデア × 表現』で成り立つと思っていて、表現だけを追いかけても上手くいきません。そして表現をするときには、ある程度コントロールが効かないぐらいの方がうまくいくと感じています。僕たちは作りながら迷うことがあるのですが、鈴木さんは、制作途中で『これじゃないかも』と迷うことは無いんですか?

鈴木:準備期間が長いので、迷っているのはその期間ですね。本格的に開発をはじめる段階へ入る頃には、かなり練り上げられた状態になっています。準備にはだいたい3年、それ以上かかることもある。そのあいだ、ずっと考え続けて、試作を重ねてあれこれ検証しています。それでも、開発を始めてから方向性を少しずらした方がいいと思う時があります。そういう時は、余分に時間がかかったとしても良いものになる方向へ合わせます。

平井氏:たとえばお土産にはよく似た商品がたくさんあるので、あとになると何を買ったのか覚えていないことが多い。だからこそ、『なんとなくでも記憶に残るもの』をつくりたいんです。文字から生まれるその土地らしさって絶対にあると思います。

鈴木:書体デザインとシビックプライドで共通するのは当事者意識ですね。『自分が関わることでこの書体が良くなる』『自分の提案でこの商品を覚えてもらえる』という当事者意識がどう芽生えるかが大事だと思っています。

江坂氏:シビックプライドについてもお二人ともとても詳しいので、また改めてお話しする機会を持ちたいですね。今日は平井さんと鈴木さん、ありがとうございました。

以下、会場でいただいたいくつかのご質問への回答です。

質問:平井さんはフォントをそのまま使わないと言っておられましたが、鈴木さんはフォントデザイナーとして、「触るんじゃねえ!」と思ったりすることはないんですか?

回答:まったくないです。むしろ「こういう使い方があるんだ!」とか「これは面白い!」などハッとさせられることの方が圧倒的に多いです。

質問:金シャチフォントで一番作るのが大変だった文字を教えていただきたいです。

回答:金シャチフォントの場合は太いところから作りはじめたので、画数の多い漢字はものすごく大変でした。例えば縦画の多い「酬」、横画が多い「鷹」。これらは調整に苦労します。最初に作る字は「名古屋」とか「金」など書体に沿ったイメージワードなのですが、あわせて画数の多い漢字も作り、最終的に漢字約8700字が展開できるよう計算しています。

質問:文化の担い手としてのデザイナーについて、もっと具体的に聞きたいです!

回答:日本には江戸時代まで、本当に豊かな文化が存在していました。それが近代以降、一気に絶えて忘れられてしまった。私たちは書体づくりの際、近代以降のデザインはもちろん、それ以前の時代まで含めた非常に長いスパンで物事を捉えています。文字について考えていくと、自然と平安時代や、さらに古いところまで遡る必要があります。そうした視点で見ていると、かつての日本文化には驚くほど優れたコンセプトやデザインが数多くあったことを、日々実感しながら仕事をしています。